10年以上の時を経て、the AfroThumbs [アフロサムズ] のアルバムが2タイトル同時に配信されることになった。
私が当時かかわっていた tacto rusticoという地方の極小プライヴェートレーベルで、プロデュースをまかせてもらった一連のシリーズの中でも、おそらく特異さ、妖しさという点では群を抜いて輝いていたはずで、その印象は長い熟成期間を経た今でも、おそらく変わらない。
この摩訶不思議なサウンドの、ジャジーだが、アフロビートに乗っていて、それでもアフロジャズとは一線を画した民族音楽色と時空を歪ませたような音楽的冒険感が漂う仕上がりを可能としているのは、一にも二にも彼らの多才さと多様なバックグラウンドによるものであろうし、使用している楽器の、そしてそれらの組み合わせの妙に起因しているのだろうと思う。
ジャズドラマー、アフロパーカッショニストでありながら、音楽や楽器を身近なものとする活動を勢力的に展開するファシリテーターでもあり、舞踏やコンテンポラリーダンスの伴奏やアングラ演劇の劇伴までをこなす縦横無尽な活躍ぶりで知られる重鎮・スズキキヨシ、
ギターからカリンバ、パーカッションまで様々な楽器をこなし、サウンドデザインやヒーリングミュージックにも造詣の深い理論派・なかもとまさお、
そして各種の吹奏楽器から謎のハープやウィンドシンセ、キイボードまで多種多様な楽器を駆使して旋律や曲中の場面転換を担うのは、ヨーロッパ古楽のグループを長年にわたって率い、その後、ケルト、ブラジル、アフリカなど多方面の民族音楽にその活動域を広げて今日に至る現代の遊歴楽人・クニ黒澤。
この3人の化学反応によって生み出されるサウンドは、同じく3人が所属していた『旅心音楽団』『Smile Kalimba』の2グループの他には、まず聴いたことがない。
そう思えるほど、唯一無二のサウンドである、と言っても過言ではないはずだ。
そもそも、彼らがメインの楽器として使用しているカリンバという楽器自体が、今でこそ、だいぶ名を知られて来たが、日本では元々、さほど知られた楽器ではない。
スズキキヨシをはじめとする先達たちが、地道に伝道活動を繰り広げ、やっとここまで辿り着いた、といったところだろう。
カリンバの発祥はアフリカの地である。針金を叩いたものや自転車のスポーク、缶を切り取ったものなど、金属片の舌を主に親指ではじいて音を発する構造のため、日本語では親指ピアノ、などと呼ばれている。
西洋では、こうした楽器は総じて
Lamellaphone[ラメラフォン] =小金属片楽器=
もしくは
Linguaphone[リンガフォン] =舌状楽器=
と分類され、さらに
Plucked Idiophone[プラックト・イディオフォン] =はじく独自音響構造楽器=
とカテゴライズされることもある。
元々は、アフリカの各民族、各部族間にそれぞれ特有のスタイルや名前が存在しているもので、
たとえばシンバブエのショナ族に特有のMbira[ムビラ]を筆頭に、
ルワンダやブルンジ、コンゴ辺りではIkembe[イケンベ]、
タンザニアのIlimba[イリンバ]、
西コンゴ界隈のリンガラ語族を中心にKisanji[キサンジ]、Eleke[エレケ]などと呼ばれるものもある。
特に、Mbiraに端を発した同種の楽器たちは、その形状、音列、素材(金属に限らず、竹や木などで作られたものもある)などが地域や部族ごとにさまざまあり、その呼び名も Kalimbaをはじめ、Sanza/Sansa、Kilembe、Likembeなど多く存在する。
そうした中で、たまたま西洋に紹介された際に主に用いられたKalimba[カリンバ]という名称が広く流布されるに至り、今では世界各地で親指ピアノ=カリンバとして認識されるようになった、と言われている。
このカリンバ、倍音が多く発生し、調律も当然いわゆる平均律によるものではない上に、音列楽器ゆえの限界も抱えており、あらかじめ設定された一定の音列しか奏でられない。
その特性により、いわゆる西洋音楽のモダンな楽器とは合わせることが非常に難しいと言われている。
通常は、単独もしくは同種の楽器によるアンサンブル、打楽器の伴奏とともに、または歌の伴奏、などとして演奏されることが多いようだ。
この2枚のアルバムでは、カリンバと似たような特質を持つ民族楽器系の倍音楽器や音列楽器(たとえば、民族ハープ、口琴、オーバートーンフルート、ゴングなど)と、その対極にあるような現代のいわゆる平均律によりチューニングされている楽器群(キイボード、ウインドシンセ、トランペット、フルートなど)を果敢に幾重にも重ね合わせて、ポリリズムのグルーヴと組み合わせることであえて混沌を生み出し、そのところどころに異質な音色や特徴的なフレーズをちりばめることにより異空間の体験を描き出すことを試みた。
また、Masamo ya Maishaでは、スワヒリ語による男声の語りと女声コーラスをカウンターパートとして配することで、カリンバなどの楽器群をより自然音や生活音に近づけ、劇的描写に奥行きをもたせ、短編フィルムのように一編ごとの世界観を明確に表現することに挑戦した。さらにビートのことや各楽器の詳細とフレーズ、など語りたいことは多いけれど、それはまた別の機会を待つとして、いずれも時代を超えた意欲作と自負しているが、わかりづらさやとっつきにくさは正直否めないところで、楽しめるかどうかはあなたのイマジネーション次第、ということにしておこうと思う。
雁賀有人/Eugene KARIGA(Sirenrocks Music/プロデューサー)
日本の中のアメリカ、Green Park育ちの昭和30年代生まれ。ビートルズより早く長髪にし、男子高校3年時に髭を生やしクラス中に蔓延させる、バンドマン時代にはスキンヘッドで古楽を演奏し、合宿レコーディングで3日3晩寝ずに録音に臨みエンジニアが倒れる、など数々の取るに足らない伝説をもつ。
音楽制作家として、また音楽評論家として、音楽雑誌へのCDやLiveのレビュー掲載、AEOLUS、NRP recoreds, tacto rusticoなどのレーベルにて多くのプロデュース作品をリリース。
▶︎動画 全曲視聴
【鎌倉の街からワールドミュージック】
湘南の腹ペコミュージシャンは、みーんな大好き。江ノ島電鉄線・鎌倉駅より徒歩2分にある、隠れ家的なカフェ・ワンダーキッチン(WanderKitchen) のマスターの、民族音楽レーベル『Tacto Rustico』の作品を、studio iota labelより一挙250曲リリース!
今回は親指ピアノを使った作品を2枚同時にリリースです。
第二弾は「親指ピアノと神秘のサウンド」「親指ピアノと密林音楽の妖しい世界」で検索!
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【studio iota label】
日本の音楽レーベルstudio iota labelではCDの制作・販売、WEBコンテンツの発信、企業のWebライティング、動画BGM製作、アーティストやお店などの写真撮影、作曲・編曲事業、レコーディング・ミックス事業などを行っています。
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