風の吹くまま気の向くまま。ベトナム・タンソンニャット国際空港のイミグレーションを抜ける。
東南アジア特有の匂いと蒸し暑さ、お決まりのタクシードライバー達の勧誘がお出迎えしてくれると、冒険スイッチが入り、日本ではお人好しで断るのが苦手な性格の僕も「No」とはっきり言えるようになっている。
歯磨きセットと服一式、フェイスタオル2枚、携帯の充電器をリュックに詰め、泊まる場所も決めないないままに乗った、ホーチミン行きの飛行機。
成田から約6時間のフライト。時差は日本のほうが2時間進んでいる。
毎年冬が始まるこの時期になると、僕の人生には何かしらの転機が訪れる。
2018年、11月。この年は、自身の営む事業が主要取引先から突然の契約解除を宣告された。
経済的に大打撃を受けて先の見通しが全く立たなくなり、僕はとりあえず1度大きく深呼吸をした。
「こんな師走に新たな取引先を探すのも至難の業だ。こうなったら久しぶりに、心機一転2019年を迎える為、東南アジアの国へ旅に出よう」そう思った。
東南アジアにある国々の中で、まだ渡航したことのない国を頭の中で並べる。
インド、カンボジア、シンガポール、ネパール、ベトナム、マレーシア、ラオス。僕のアンテナに引っかかったのは、ベトナムにあるフーコック島だった。
旅好きの仲間から勧められた情報によると、フーコック島はベトナム最後のリゾート地と呼ばれる秘境。
島の西側ではベトナム国内で唯一サンセットを見ることができ、その夕陽は東南アジアイチ美しい。
まだリゾート開発が完全に進んでいない今こそが、本物のリゾートを体験することが出来る最後のチャンスだ、とのこと。
ベトナムの雨季がちょうど11月で終わり、湿度も雨も減る12月。
夢中になれる冒険と癒しが欲しくて、迷わずベトナムを選んだ。
確保することの出来た予定は約10日間。僕のこれまでの旅で最も長期間となった。
はじめに向かったのは、「ブイビエン通り」と呼ばれるバックパッカー街。
空港からホーチミン市内までは、比較的安全なタクシー会社 ビナサン(VINASUN)を選び移動した。
キラキラのネオンが光るバーが立ち並び、各々のお店から流行りのクラブ音楽が爆音で外に聞こえてくる。夜になると多国籍な旅人が集まり、その1日をより最高の思い出にする為にビール片手で騒いでいた。
賑やかで歩くこともままならないウォーキングストリート。携帯を片手に気を緩ませて歩いていようものなら、あわよくば盗もうと目を光らせる怪しい輩が、容赦なく跡をつけてくる。
カオスな街を歩いていると、10歳に満たないであろう子供達が、ファイヤーパフォーマンスをしてチップを稼いでいた。火の付いた棒を2本持って回したり、アルコールを口に含んでその棒に吹き掛け、火炎放射をするパフォーマンス。
もちろん吐いたお酒はストリートに落ちるので道が燃えている。
日本の繁華街で同じ事をしたら即通報、即逮捕だろう。道が燃えるのも勿論問題だが、更に問題なのは小学生くらいの子供が、火が付くほどアルコール度数の高い酒を口に含んで色々と大丈夫なのか?
僕が見た男の子は視点が定まらず、唇は腫れ上がっていた。
お金の存在に複雑な気持ちになったが、これもホーチミンだけに限らない、ひとつの現実であった。
飛行機での移動の疲れもあって、「ブイビエン通り」にあるビールバーで腹ごしらえし、現地のポピュラーなビール、サイゴンビール、333(バーバーバー)を飲み干すと、
天気も良かったので通りから少し歩いた安全そうな場所で、リュックを背負ったまま仮眠をとった。
真夏のような暑苦しさに目を覚ました。
リュックを背負ったまま野外で眠った体は、思いのほか元気だ。
レンタルバイクを借りに向かう。1日のレンタル料金は500〜600円だった。
ご存知、ベトナムのバイク交通量は上海に匹敵、いやそれ以上だ。
普通の交通ルールを誰1人として守らない上に、交差点によっては赤信号でも右折が出来るという謎のルールがある。隣や前を走るバイクとの接触は日常茶飯事。
ホーチミン市内での運転には少しコツがいるかもしれない。もし訪れた際は細心のご注意を願いたい。
地図を見ながら僕が最初に到着したのは、観光でも有名な「ベンタイン市場」。
バイクを停めて市場の中へ入ると、碁盤の目状に無数のお店がひしめき合っていた。
採れたての鮮魚や果物、お土産や雑貨など色々なお店が集まっている。ちらほら偽ブランドコピー品の数々もあった。これも東南アジアの市場ではお決まりなのだが、ぼったくりや腕を掴んでの客引きが平気で横行していた。
次に、旧首都サイゴンの街並みが僅かに残る、発展途上の「ホーチミン市内」を適当に走り回っていた。
するとスターバックス・コーヒーを発見。
WiFiを繋いで今晩の宿を探す為に立ち寄る。
日本で大好きなダーク モカ チップ フラペチーノを見つけて注文したが、届いたフラペチーノは温く、日本で当たり前にある氷のシャリシャリはなかった。
気を取り直してスタバで今夜の宿探し。今朝、バイクを借りてから最初に行った「ベンタイン市場」のすぐ近くにある、1泊 800円 ほどのホテルを予約してチェックインすることに。
値段の割に、ホテルは綺麗で虫もいなくて冷房も完備。
隣の部屋との壁の薄さは気になったが、それ以外はいたって快適だった。
2日ぶりのシャワーを浴びて、クーラーの効いた部屋で涼んでいるうちに、安心して寝てしまった。
夜 20時頃にクーラーの寒さで目を覚ました。
このまま眠るか少し考えた挙句、
昼間とは違う街の顔を感じるために、アテもなく再びバイクで「ホーチミン市内」を走り回ろうと決めた。
ローカルな公園にダンボールを敷いて住む現地人と、普段は吸わないタバコを貰って一緒に黄昏てみたり、
訳もなく気が向いた路地に入ってみたり、
地図に書いてない場所までバイクを走らせたり、とりあえず夜のホーチミンを堪能する。
バイクを停車し、昨日と同じく賑わう「ブイビエン通り」のウォーキングストリートのネオン街へと舞い戻った。
ストリートに面した席に座って、楽しそうな旅人達と流行りの音楽をつまみにビールを飲んでいると、徒歩の商人がオイルライター、サングラス、タバコ、お守り、おもちゃ、なんでもかんでも次から次へと売りつけに来る。
すべて「No thank you」と断る中、とても印象的だったのは靴磨きの少年だった。
5センチくらいのナイロンブラシを持って僕の足元に跪き「靴を磨くよ」とゴシゴシするジェスチャーをしている。
彼が磨こうとしているのは、ほぼ剥き出しになった僕の素肌とスポンジ製のビーチサンダルだった。くすぐったいだろ、やめてくれ。
そんな賑やかなホーチミンの夜も更けていき、街を眺めながら朝までお酒が抜けるのを待ってホテルへ戻り、シャワーを浴びて滞在2日目の床に就いた。
ベトナム滞在3日目。朝帰りだった僕は夕方まで眠ってしまった。
明日は、旅の目的地、フーコック島に行く日だ。
ホーチミンで行きたい場所が思い浮かばなかったのと、少しばかり体力を回復させたかったので、ホテルから徒歩で行ける距離にあるマッサージ店へ足を向ける。
30分500円という激安でフットマッサージをしてくれるのだが、これが最高に気持ちいい。
この体験が、のちにベトナム滞在時での大きな助け舟となるのである、、
ホテルの部屋に戻り、フーコック島への飛行機チケットと宿泊先を予約し、島の下調べを済ませた。
フーコック島への行き方は、飛行機で約1時間。
ちなみに、船で約7時間かけて渡るという選択もがある。
船酔いに弱い僕は迷わず飛行機を選んだ。
明日からの新しい旅に胸を馳せながら、その日は早めの眠りについた。
□ ライター Zen
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