【ピアノの歴史】限界を超えた102鍵108鍵盤の追い求める根源は「音」!未来の可能性。

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ピアノの未来の可能性、横に広げる。


ピアノが誕生して約300年余り。イタリアの楽器製作家によって原型が発明されたピアノは、改良に改良を重ねて現在に至った楽器です。

「現在の」というくらいですから、ピアノにはご先祖さまである、さらに古い鍵盤楽器が存在します。

改良の歴史の中で、作曲家とピアノメーカーを切り離すことはできません。作曲家はそれぞれの時代のピアノに接して創造力を発揮してきました。

 

たとえば・・・

音楽室に肖像画のある有名なバッハがいた時代に現在のピアノはありませんでした。

モーツァルトの作曲したピアノ曲は、現在の音域よりも狭い楽器のために書かれています。

ベートーヴェンの時代ごろ、ピアノは大きく改良され、続々と音域が拡大されていた最中にあり、最晩年まで常にピアノの音域が拡大されるごとに、最高音から最低音までフルに活用して作曲していました。

 

音域」という言葉がたくさん出てきましたが、音域とは出せる音の高低の範囲のこと。

つまり昔は、鍵盤の数が少なかったんですね。

現代の標準的なピアノは88の鍵盤を備えていますが、これが登場するのは19世紀後半に現代のモダンピアノへ発展してからの事です。

 

人間の耳は約20ヘルツから20,000ヘルツまでの範囲の音を聴き取ることができますが、音程として聴き分けることができる上限はせいぜい4000ヘルツぐらいまで。

88鍵以上ピアノの鍵盤数を増やして音域を拡大したとしても、人間の耳には聞こえなくなってしまうため、音楽的には殆ど意味をなさなくなってしまいます。

この段階で、ピアノの音域は、通常の人間の耳に聞こえる最後の限界に達したと言えるでしょう。

ですが、世界のピアノメーカーが、なんと88鍵より多い鍵盤を持つピアノを作っているらしいのです…!

 



 

なぜピアノの音域を広げるのか?

最初の4オクターブのフォルテピアノから、7¼オクターブのモダンピアノまで、ピアノの音域は1880年まで増加し続けました。

88鍵が完成形なのか?長らくピアノの鍵盤の拡張はメーカーにとって議論されてきましたが、21世紀に入ると更なる音域の拡張が本格化しました。

 

ベーゼンドルファー(オーストリア)の「エキストラベース」を増やした97鍵のコンサートグランドピアノ『モデル290 インペリアル』が有名ですが、実際には現代音楽の分野以外で、その鍵が使用されることはほとんどありません。

このピアノの最低音部の9鍵は、パイプオルガン用の曲をピアノ用に編曲した時にパイプオルガンの低音域を再現する目的と、その他の通常の音域の鍵盤を弾いたときにそのエキストラベース分の弦と共鳴して豊かな「響き」を与える目的を兼ねています。

 

現在は102鍵のステファン・ポレロ(Stephen Paulello)や、108鍵のスチュアート・アンド・サンズ(Stuart and Sons)が存在するので、97鍵でも最大ではないのです!

 

これからのピアノがどう発展していくか?

人間の耳に聞こえないものを更に広げる特異性は、未来のピアノの可能性のひとつではないでしょうか。

その秘密は?

 

88鍵を超えるピアノを作っているメーカー

🎹デーヴィッド・ルーベンシュタイン・ピアノ
97鍵 – 2000年に初めて作られ、そのコンサートグランドピアノは奥行き371cm!!

🎹ベーゼンドルファー
97鍵

🎹スチュアート & サンズ
97鍵 – ベーゼンドルファー・インペリアル以来およそ90年ぶりに制作された97鍵モデル。
102鍵
108鍵 – 2020年現在世界一広い音域を持つピアノ、2018年9月に初めて作られた。

🎹ステファン・ポレロ
97鍵
102鍵

🎹クリス・マーネ - ザ・ストレート・ストリングス・グランド・ピアノ(THE STRAIGHT STRUNG GRAND PIANO
90鍵 – 2017年に初めて作られた。その製作には世界的指揮者・ピアニストのダニエル・バレンボイムが深く関与しており、彼の演奏するピアノにはその名を冠している。
ラヴェルのピアノ独奏作品「水の戯れ」および「夜のガスパール」に対応。

 

ベーゼンドルファーは低い音のみの拡張で、「エキストラベース」と呼ばれ、昔は鍵盤の上を覆う木の蓋が付けられ、現在は白鍵の上面を黒く塗って奏者の混乱を防ぐ措置がとられています。

スチュアート・アンド・サンズやステファン・ポレロは、高い音・低い音共に拡張しており、102鍵盤モデルの拡張音域の鍵盤の見た目は、他と変わりません。

 

縦に伸ばすか、横に広げるか

鍵盤数を横に拡張するメーカーがある一方で、イタリア生まれの二つのピアノメーカーはピアノの躯体を縦に拡張しました。

🎹Borgato(ボルガート)
GRAND PRIX 333 – 奥行333cmの長さを持つコンサートグランドピアノ。

🎹FAZIOLI(ファツィオリ)
F308 – ピアノのサイズが他メーカーの最大約275cmを上回る308cmもの大きさになる。

長くなった低音域の弦から生まれる驚愕すべき芳醇な倍音。気になるお値段はスポーツカー並みです。

 

世界の風土におけるピアノの歴史

いかがでしょうか? 88鍵より多い鍵盤を持つピアノは、私たちが知っている以上に作られていますね。
当記事への情報提供・協力いただいておりますピアニスト・ピアノ研究家である松原聡氏に、ここからさらに詳しいお話を伺っていきましょう。

ピアノの開発の歴史には、その土地の風土が関係してきます。

響きが豊かな建物が多いヨーロッパ。ベーゼンドルファーの時代に戻って、ヨーロッパの石造りの建物の中では、「弦の張力を高く、楽器の躯体を大きくしてボディ全体を響かせる」という流れが、もしかしたら”ピアノの未来を作る一つの可能性”として考えられてきたのは、想像に難くありません。

対して、ヨーロッパからアメリカへ渡ったスタインウェイはその興行形態から「PAがない時代の野外スタジアムで、5千人~1万人に生音が届くように。数千人規模のコンサートホールで100人規模におよぶオーケストラと対等音量の楽器を。」という無理難題を突きつけられたことを原動力に、最新の音響学や、発展著しいアメリカの工業力を駆使して「音に混ぜ物」をしてピアノ自体に大音量を持たせることで未来を形作ってきました。

 

ヨーロッパの石造りの建物が自然に音を増幅してくれる環境に立ち戻ると、『純粋で澄み切った音を追い求めて響かせるかどうかというところが、文化なんですね。

向こうの張力の高い楽器は、ペダルを踏みっぱなしでバッハのプレリュードを弾き切れるほど、音同士の濁りがありません。

「音に混ぜ物」をしたピアノの音を最初から聞いている日本人には、なかなか無い発想です。

 

歴史を辿ると20世紀初頭には90鍵盤のピアノがあった。

88鍵以上に音域を拡張したピアノ、それぞれのエピソードについてご紹介したいと思います。
ピアノメーカー・ブランド名 : あお

ガヴォー

20世紀初頭のフランスでは90鍵を持つピアノがありました。

エラール(Erard)』と『ガヴォー(Gaveau)』です。

ラヴェルはエラールの使い手で、自宅でも使っていたので(85鍵盤のNo.0でしたが)、躊躇なく最低音を超える「G」を使って作曲しているので、90鍵を想定して書かれています。

作曲家の橋本國彦が芸大での授業中に、こんなエピソードがあるとか。
ラヴェルの夜のガスパールより「スカルボ」を取り上げたときに、ピアノの最低音より低い「G」の音があり、先生これは何ですか?と質問されて、これは間違いです!と受け答えしてしまいました。

 

イバッハ

音域の広いピアノといえば、ベーゼンドルファーのイメージがありますが、ドイツの『イバッハ(Ibach)』が、ワーグナーに献上したのが、90鍵の「フル・コンサート・ピアノ」、略して「フルコン」でした。

ibach公式



 

マーネ

ベルギーの『マーネ(maene)』は、現代の一般的なグランド・ピアノのように弦が交差しておらず、フォルテピアノやチェンバロのようにすべて平行に張られている平行弦を最大の特徴としています。

有名なスタインウェイのディーラーでもあるマーネ社は、元来古楽器の修復や複製を得意としてきた経緯があり、自社で博物館を持っています。

その中に扇型になっている大変ユニークなピアノがあります。
共鳴版の面積が広がるので響きが取れ、弦の長さが取れる躯体の持ち主です。

Piano’s Maene Facebook

 

エラール

タンザニアの最大の都市 ダルエスサラーム(Dar es Salaam)には、1900年にエラールが一台だけ97鍵を試作したピアノがあります。平行弦のフルコンです。

Dar es Salaam Serena Hotel piano

在タンザニア日本国大使館

 

スチュアート&サンズ

オーストラリアの『スチュアート&サンズ(Stuart & Sons)標準のピアノよりも14多い鍵盤数を持つグランドピアノを作成しました。合計で102鍵、つまり8オクターブと1.5オクターブです。2018年に追加の鍵盤が20個、合計で108鍵、9オクターブのモデルが製作され、3mにもおよびます。(約2,500万円)

ベーゼンドルファーを未来系にしたらこんな感じなのかもしれません。
その他の特徴として4ペダルが採用されています。4本ペダルの機能はファツィオリのフルコンF308(約2,200万円)とおなじです。

フルコンとセミコンのみを製作するメーカーです。

ステファン・ポレロ

フランスの奇才『ステファン・ポレロ(Stephen Paulello)』が作っている Opus102。平行弦。
平行弦なのでサイズは全長3mと、とても大きくなります。

ポレロ氏は元々、ピアノ弦などを作っている技術者さんで、それをやりながら古いピアノの修理をしたりしていましたので、古いピアノの修復で行われているような弦の選択肢を提供する必要性を提起しました。

ほぼフルコンしか製作していないメーカーです。

 

102鍵盤のピアノは共鳴板が広くなるので、低音が響いてふくよかになります。

 

当記事への情報提供・協力 : 松原聡(ピアニスト・ピアノ研究家)

1977年、神奈川県出身。3歳よりピアノを学ぶ。13歳でウィーン市立音楽院ピアノ科入学試験に当時最年少で合格。16歳の時、東京にて初リサイタルを開催。その後、チェコ・プラハ音楽院へ留学。2003年神奈川県民ホールで1927年製エラールピアノのコンサートでデビュー。
近年は紀尾井ホールでのリサイタルを始め、ヨーロッパ演奏旅行では、チェコのフラデッツ・クラーロヴェーのペトロフ本社内博物館ホール、ポーランド・ポズナンのポーランド劇場、イタリア・ミラノのトスカニーニ・ホールのリサイタルにて大成功を収める。また、ピアノ研究家として欧米のヴィンテージ・ピアノ、及び歴史的録音の研究や収集、自動ピアノのCD復刻の監修や執筆等の活動も行っている。2020年2月24日NHK総合テレビで放映されたファミリーヒストリー「フジコ・ヘミング~母の執念 魂のピアニスト誕生~」にインタビュー出演した。現在、東京と群馬を中心に各地で多彩な音楽活動を展開している。

 

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 ライター 前田 紗希

作曲家、ドラマー、RECエンジニア
国立音大⇨世界一周⇨NY
『studio iota label』旅×音楽の8事業の社長・編集長
音楽療法/写真/SEOライター/カフェ

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【studio iota label】
日本のレコード会社 studio iota LLC.では音源の企画制作・流通販売、WEBコンテンツの発信、企業のWebライティング、動画BGM製作、アーティストやお店などの写真撮影、作曲・編曲事業、レコーディング・ミックス事業などを行っています。

 

【ウェブサイト】http://studio-iota.com/
【キャンプマガジン】https://iotabi.com/campio/
【note】https://note.mu/nagareruiota

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