世界の名曲をキューバ風に:新アルバム『Versiones de La Academia』
はじめに ーー音楽の国境を越えて:キューバ音楽の素晴らしさ
世界トップクラスの音楽レベル、というイメージで知られる国、キューバ。その魅力は言葉に尽くしきれない。
ドラマーである僕は、リズムを探求するために世界中を巡ってきたが、キューバは一番凄そうな国として常に興味を持ち続けていた。
そんな中、2019年の春におとずれたルイ・ロペス・ヌッサ(Ruy López Nussa)氏との出会いが、キューバ音楽への情熱を更に燃やす思い出となった。
今回、キューバの音楽と、アメリカやアフリカの音楽との違い、そしてアフリカ音楽とキューバ音楽の関係について探求してみたいと思う。
そして皆さまにとって、この魅力的なキューバ音楽の世界に触れられる絶好の機会がやってきた。
ルイ・ロペス・ヌッサ(Ruy López Nussa)氏がリーダーを務める「Ruy López-Nussa y La Academia」の最新アルバム「Versiones de La Academia」が2023年11月に配信される予定だ。
このアルバムは、世界中の有名曲をアレンジしたもので、キューバ音楽への入り口として非常にオススメだ。
さあ、キューバ音楽の魔法に触れてみよう!
キューバ音楽の入門に!〈 Ruy López-Nussa y La Academia / Versiones de La Academia 〉
▶︎配信リンク: https://lnk.to/9tAPyv1m
ルイ・ロペス・ヌッサ(Ruy López Nussa)氏に初めて出会ったのは 2019年の春のことーー。
長らく憧れていた国、キューバ。
ミュージシャンであれば誰もがイメージする「キューバの音楽レベルは世界トップクラスだ」というイメージ。
僕はドラマーとして、リズムを探求するためにアメリカ、ブラジル、アフリカまで足を運んで色々なリズムや音楽を体験してきた。
その中でもキューバは「一番凄そうな国」としてずっと頭の中にあったのだが、それ故に心のハードルも高く、何年も行けずに温めてしまっていた。
ーー世界有数の音楽国として、ミュージシャンたちが憧れる国キューバ。
その中でもトップドラマーと言えばすぐに名前が上がる、それが僕が出会ったルイ・ロペス・ヌッサ(Ruy López Nussa)氏だ。
この出会いは音楽人生において、特別な意味を持つものになる。
実際に会ってみると、その卓越した技術、高い志、音楽性の高さ、そして温和な人柄にすぐ心を奪われてしまった。
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彼が率いるバンド、“Ruy López Nussa y La Academia”は、キューバン・ジャズのジャンルに属している。
今回はこのキューバンジャズとキューバのリズムについて、僕の視点から語りたいと思う。
キューバン・ジャズとアメリカのジャズの違い
僕ははキューバン・ジャズ(Cuban Jazz)が大好きだ。
しかしアメリカのジャズは実はあまり聴かない。
その違いは、
キューバン・ジャズはすべての楽器のリズムが面白く、曲の構成や旋律が美しい
という点にある。
アメリカのJazzはほとんどの場合、”ある共通のフォーム“に従う。
テーマ→ソロ→テーマという定形があり、それに沿って曲が作られたり演奏される事がほとんどだと思う。
一方、キューバン・ジャズはこのようなパターンをあまり感じさせず、
曲としてのドラマ構成、いわゆるポップスなどに通じるものがある。
この面白いリズムについて言えば、ドラムだけでなく、すべての楽器がポリリズム(複合リズム)を奏でていることが特徴だ。
ポリリズムが視覚的に分かってイメージしやすくなるよう、ここで一つ動画をご紹介。動画では、『2拍3連』でポリリズムを表現している。
アメリカや日本のリズムと、ラテンアメリカ諸国のリズムの捉え方の違い
これは所説あるが、実は日本だけでなく、アジア圏、さらにはヨーロッパやクラシック音楽も、1,3拍が中心だと感じる。
つまり、“アフリカ発祥以外”の音楽は、リズムやメロディーの構造において1,3拍を中心に据えていることが多い。
西アフリカの人達が悲しい歴史の中、奴隷としてアメリカ大陸に運ばれ、歌や楽器の演奏が上手かった彼らが育ててきたのが、2,4拍中心のリズム、いわゆる「バックビート」と言われるもの。
分かりやすく言うと、僕らが現代音楽に合わせて手拍子をする所、これがバックビート。
このバックビートを利かせたリズムを基に、ドラムの上に他の楽器を重ねて音楽が構築されたものが、現代音楽のルーツとなっていると僕は考えている。
アメリカは2,4拍が欲しくなる楽曲作りが多く、
アメリカが生んだ音楽を、イギリスではビートルズ(The Beatles) やローリング・ストーンズ(The Rolling Stones) 他の有名グループが憧れ、昇華させ、
それらの音楽が日本にも入ってきている。
いまや世界のスタンダードはこの、
アメリカで生まれたアフリカンアメリカンが考案したリズムや音楽性
なのだ。
アメリカが生んだアフリカン音楽が、世界中で影響力を持っている、
しかしながらそれぞれの国の文化も交じり、「音楽はバックビートで構成されながらも1,3にしがみついてしまう」
それがアフリカ、アフリカンアメリカン以外の現状だったと思う。
リズムやメロディーの構造において、1.3拍が基準になっているオンビートと、2.4拍が基準になっているオフビートについてイメージしやすくなるよう、ここで既存曲を用いてご紹介。
「だった」と過去形にしたのは、昨今の音楽は日本を含め相当バックビート感が強くなっていると感じる。
インターネットが普及し、音楽をYouTubeなどで見聴きし始めた事で、世界との垣根が一気になくなり、若い世代を中心にいきなりネイティヴな音楽をダイレクトに肌で感じられるようになったからだろう。
低音と高音の位置の違い
さらにアメリカ大陸の中でも、北アメリカとラテンアメリカでは大きな違いがある。
- 北アメリカのリズムは「1,3拍側が低音、2,4拍側が高音」で構成されている。
- ラテンアメリカ諸国のリズムは「1,3側が高音、2,4側が低音」で構成されている。
とても大まかな説明で異論もあるかもしれない。
しかし、僕自身が様々な経験を通じて学んだ結果、この考え方によって多くの問題が解決し、演奏しやすくなった。
北アメリカのリズムの例/「1,3拍側が低音、2,4拍側が高音」で構成。
Michael Jackson – Billie Jean (Official Video)
Michael Jackson – Beat It (Official 4K Video)
ラテンアメリカ諸国のリズムの例/「1,3側が高音、2,4側が低音」で構成。
Ivete Sangalo – Medley: Faraó Divindade Do Egito / Ladeira Do Pelô / Doce Obsessão
Bob Marley & The Wailers – No Woman, No Cry (Live At The Rainbow 4th June 1977)
例えば、レゲエやサンバは2,4拍に低音ドラムを置いている。
この違いが、ポップス音楽を演奏するのと、サンバやレゲエを演奏するのとの大きな違いの一因だろう。
2,4拍が明らかに大切であり、場合によっては1,3拍は演奏しない、
いわゆるシンコペーション(ウラ中心のアクセント)をしている事が多い。
これは1,3拍を中心として勉強してきたミュージシャンには決定的な違いがあり、
幼少の頃からずっとクラシック中心でやってきました!という英才教育型のミュージシャンは、
ラテンアメリカの音楽を演奏することは容易ではない、と予想する。
このように、リズムの違いが音楽に与える影響は非常に大きい。
キューバのリズムは、他のラテン音楽と比較しても、より細かいシンコペーションが必要とされる。
実際、キューバの有名なピアニストとの会話で、「シンコペーションがなければ音楽が面白くないだろう」と述べていた。
こうしたシンコペーションへのアイデンティティーが、キューバの音楽レベルが世界トップクラスとされる所以なのではないだろうか。
キューバやラテン諸国の音楽とアフリカ音楽の違い
ーー現代音楽のルーツを追求するために、西アフリカ、東アフリカ、中央アフリカを訪れたことがある。
しかし、ニューヨークでのセッションでの苦い経験を経て、ルーツ探求の必要性を痛感した。
アフリカのリズムは独自であり、多様な音楽スタイルに影響を与えている。
その中で現代音楽の源流を見つけるために、アフリカへの旅は必須だったのだ。
ニューオリンズ、ブラジルへと渡り、最終目的地アフリカに入った。
その結果、アフリカ音楽は太鼓と歌が中心となっていることに気付いた。
これは僕が元々ポップやロック音楽を好んでいたため、ずっとは聞いていられないものと感じた。
アフリカまで行ってみて思った事、太鼓と歌が多い(笑)
それらはもちろん好きだ。
アフリカン・ポップスは、しばしばミニマルなビート(最小単位で繰り返されるリズムや旋律)に焦点を当てていることが多く、色々な楽器の美しいハーモニー、そしてドラマティックな曲構成が欲しくなる。
一言でいうと「アフリカ以上、アメリカ未満」と呼べる、僕にとって丁度よい国というものを考え始めた。
その答えがラテンアメリカである。
ラテンアメリカは多様性に富んだ音楽の宝庫だ。
国ごとに異なる宗教、人種に基づく音楽文化が存在し、その多様性こそが魅力の一因だろう。
僕はブラジルに3回、ジャマイカに1回訪れた経験を持つが、
その中でもキューバの音楽がNo.1と感じた理由は、
より複雑なポリリズムのアプローチとシンコペーションの嵐だった。
ルイ・ロペス・ヌッサ氏の著書『Ritmos De Cuba: Cuban Rhythms for Percussion and Drumset』で書かれた方法論を、バンドを通じて発展させ、説明している。ヨルバ・アララ・コンゴ・カラバリなどが起源のリズムと民謡を通して、民族音楽の多様なリズムが豊かに表現されている。
キューバ音楽の魅力:ポリリズムとシンコペーション
例えばジャマイカを発祥とするレゲエは、
低音が2,4拍、8分ウラ打ちを続けるギターとピアノ
これが基本の土台。
ポップスの楽曲と比較して充分シンコペーション要素を含んでいるが、それでも8分音符が中心の楽曲作りが多い。
ブラジル音楽は明らかに16分音符が多く、これはかなりポリリズミックでシンコペートされている楽曲作りが多い。
これは本当に楽しい!僕はブラジル音楽を愛し、何度も訪れるほどの魅力を感じている。
しかし、そこにキューバを加えると、僕個人としてはキューバの方がより鮮やかなリズムの組み合わせが多く、より表拍をハッキリと表現しない、「シンコペの王者の風格」があるのである。
キューバ音楽は歴史を掘っていくとルンバが大きく関わってくる。
ルンバは西アフリカからのルーツを持ち、サンテリアという宗教で使用される音楽。
ブラジルではカンドンブレという宗教音楽が酷似している(同じ西アフリカルーツ)。
しかし、ブラジルとキューバでは異なる化学反応を遂げており、それぞれの音楽の独自性がある。
これは、ブラジルがアフリカ人と南米・ポルトガル人とのミックスであることと、
キューバはアフリカ人とスペイン人のミックスであることにも、違いがあるのではないかと思う。
また、西アフリカから連れてこられた地域や民族の違いも音楽に影響を与えているのかも知れない。
ルーツは一緒でも化学反応が違い、生まれた音楽も違うのだ。
ルンバは、複数の太鼓と歌だけで構成される音楽だが、それを現代の楽器で演奏すると、ちゃんと太鼓アンサンブルのリズムを感じることができてびっくりする。
ルンバのリズムは、キューバ音楽の基盤であり、ルイ・ロペス・ヌッサ(Ruy López Nussa)氏は常に「ルンバを聴いて」と言う。
アフロ・キューバンの魅力を感じる「チャチャロクアフ」の即興演奏。通常、キューバの伝統的なバタドラムという楽器で演奏される。ルイ・ロペス・ヌッサ【Dia de Africa】
Versiones de La Academia
キューバ音楽はその多彩なリズム、シンコペーション、そして文化の融合から生まれる魅力がある。
僕の愛するキューバについて語ったが、キューバ発のアフロキューバンリズムとジャズが融合した楽曲を発信し続ける“ルイ・ロペス・ヌッサ & ラ・アカデミア(Ruy López-Nussa y La Academia)”が、カバーアルバム「Versiones de La Academia(ヴェルシオネス・デラ・アカデミア)」を2023年11月にリリースすることが決定した。
このアルバムは、世界中の有名曲をアレンジしたもので、キューバ音楽への入り口として非常にオススメだ。
- 「Human Nature」 – Michael Jackson
- 「No Woman, No Cry」 – Bob Marley
- 「Could You Be Loved」 – Bob Marley
- 「April in Paris」 – The Count Basie Orchestra
- 「Samurai」 – Djavan
- 「Nostalgias」- Juan Carlos Cobián
など、多彩な曲が収録されている。
次回の記事では、ルイ・ロペス・ヌッサ(Ruy López Nussa)氏との出会いやキューバの音楽事情について詳しく語りたいと思います。
皆さん、ぜひ「Versiones de La Academia」をチェックしてみてください!
▶︎配信リンク: https://lnk.to/9tAPyv1m
品番 iota-044
配信開始日 2023.11.01
収録曲数 全6曲
収録時間 29分
Spotify(クリックすると音楽が流れます)
ライター
Zin Atrevido Hitoshi
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【studio iota label】
日本のレコード会社 studio iota label では音楽の制作・販売、輸入、WEBコンテンツの発信、企業のWebライティング、動画BGM製作、アーティストやお店などの写真撮影、作曲・編曲事業、レコーディング・ミックス事業などを行っています。
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