「プライベートレッスンもしています。何月何日ここに来て下さい」
メールの対応をしてくれた彼はそう言った。2度目のニューヨークへ行く前の事だ。
バーナード・パーディ氏への連絡はメールから。
僕には日本でドラムの師匠と仰ぐ人が数人いる。
そのひとりの師匠が兼ねてから話題にしていた Bernard “Pretty” Purdie(バーナード・”プリティ”・パーディ)氏。
Groove Drumingの始祖と呼び名が高く、僕も大好きになり、毎日のように聴いてた。
その昔、師匠がPurdie氏を日本に呼んでドラムクリニックを開催したとの事だが、残念ながら僕はその場にはいなかった。
しかしそこで諦める僕ではない。
Purdie氏の活動拠点がニューヨークであると知っていた僕はネットで調べていって、ある音楽学校でレッスンしている事を知る。
そこで僕は意を決してメールを打つ。
「Web管理者様。Purdie氏が学校でレッスンしているとの事ですが、部外者でも単発で受講する事は可能でしょうか?」
そして何日かして返信が来た。
「学校は部外者は入れませんが、プライベートレッスンをする事が可能です。
何月何日にこのスタジオに来て下さい。
Bernard “Pretty” Purdie Tel:------」
なんとご本人であります!!
しかも電話番号まで書いてある!!
これはファンにとってはあり得ない喜びです!!
ご本人から返信いただいた上に電話番号までGetですから!
もう僕の旅は始まる前から始まっていたのだ。
そしてニューヨークに到着。
一回目の時に知り合ったDJの日本人の家に泊まり、彼もPurdie氏のサウンドが大好きだという事で通訳として同行してもらう事に。
肝心のレッスンの日がやってくる。
スタジオに着いた時にはすでに彼と覚しき人物が和やかにスタッフと話していた。
その人物が振り返る。
「Are U Hitoshi? Nice 2 meet U.」
おおおお!
ご本人とご対面です!
Purdie氏のアーティストミドルネームは”Pretty”。チャーミングな笑顔と優しさが、僕を包んでくれる。
通訳の友人もご満悦!
本当にすでにドキドキしていた。さっそくスタジオに入る。
「さあ、何か叩いてみて」想像通りの第一声が。
もうそれはそれは緊張していたが、
それでも必死に僕の知っている彼のパターンを叩いた。
バーナード・”プリティ”・パーディといえば「ダチーチーチー」
バーナード・”プリティ”・パーディといえば、グルーブ感あふれる16ビートと独特のタイム感を持つシャッフルが特徴で、スウィングからファンクへと、リズムが変化した時代の礎を礎を作ったひとりであることは間違いない。「ダチーチーチー」というドラムフィル、聞き覚えはありませんか?
特に世界的に有名なのが「パーディー・シャッフル(Purdieシャッフル)」と呼ばれるパターン。
・Home at last
・Babylon sisters
Steely Danの楽曲では、そのリズムと極上のGrooveで、世界にその存在を知らしめました。
「さあ、何か叩いてみて」想像通りの第一声。
「OK. Stop. それはPurdieシャッフルではない」
来た、
いきなり差し込まれた。
まぁそれを知りたくて来ているので全く問題ないですが(笑)
「Purdieシャッフルはそんなに速くない。もっとゆったりとしていて、心地良い。それがPurdieシャッフルだ」
そして彼が叩いてくれる。
目 の 前 で !
もうそれはそれは極上のGroove。
叩きながらしゃべる彼の独特なクリニック手法も相まって、聴いているこちらは笑顔しか出ない。
「さあ、もう一度叩いてみて」
足のボリュームコントロールを意識して
その後に言われた事は、ほぼ
「バスドラムの音がデカい」(※バスドラム = 足で踏む大太鼓)
もう何を叩いてもこれしか言われなかったんじゃないかと思うほど。
確かに音量コントロールが大事なのは分かっていた。分かっていたつもりだった。
でもドラマーにとって?僕にとってバスドラムにボリュームコントロールを意識した事などほとんどなかったので面食らったのと、あまりにも難しく全然出来なかったのだ。
何か質問はないか?と言われたので、
「メトロノームの練習はどうやってますか?」と聞く。
そして返ってきた回答。
「メトロノームは使わない。使うとしても最初の4~8小節だ。
一番大事なこと、それはテンポだ。
どんなに音数が多かろうが、少なかろうが、パターンが変わろうが、同じテンポとGrooveを意識するんだ。
メトロノームは練習の役に立つが、最終的にはリズムがクラッチ(固まる,引っかかる)する。
ブレイクの時にテンポがなくなる気がする?それは自分をメンテナンスするんだ。
メトロノームを追うな。自分を追え。自分を追うんだ。」
過去に叩いた1音たりとも。自分を下げる事を言ってはいけないよ。
素晴らしいアドバイスをされているのに僕は必死過ぎてあまりよく頭に入っていなく、バカな事を言ってしまった。
「あなたは素晴らしいドラマーだ。ドラマーを通り越して偉大なアーティストだ。それに引き換え自分は何も出来ない、ドラマーと呼ぶにも事足りていない。」
僕なりの彼への賛辞で、思った通りの事を話した。
そしたら和やかな顔だった彼がいきなり真剣な顔になり、こう言った。
「自分を下げる事を言ってはいけないよ。絶対にだ。
私を見てごらん。過去に叩いた1音たりとも後悔した事などない。
常に自分は最高の演奏をしている。そう思った事しかない」
衝撃の言葉だった。それが彼のアイデンティティか!
僕はそれとは対照的に
「後悔する事が好き」
これが座右の銘だった。
自分を卑下して話す。これは日本全体の文化だが、これがダメだと言う話し。
確かにアメリカ人はあり得ないほどの自信を持っている。
聞いた話では、バンドのオーディションに来たミュージシャンに「曲を覚えてきたか?」と質問した所「完璧だ」と答えた彼が全く覚えても来ていないし、演奏があり得ないほどヘタだったという(笑)
この手の話は稀ではなく、割と国民全体が標準装備だ。
あまりにもヘタなのに自信を持っているのは手に負えないが…上達するのに大切な要素であることは間違いない。
特にドラマーが迷ってリズムが揺れていては、それに乗る他のパートも乗れないというもの。
あの優しくお茶目なPurdie氏が真剣な眼差しで教えてくれた事。これは今でも僕の礎になっている。
人には「自画自賛,自分が大好き。アルゼンチン人め!」などと言われる僕だが、
これは従来のキャラではない。
それもこれもドラムのため。
音楽のためであるという事を、ご承知おきを!
一緒に昼食。物の価値はその人の心が決める。
2度受けたレッスンの後、お昼に誘ったら一緒に来てくれるとの事で
、韓国人街(ニューヨークで美味しいご飯食べるならここ)に行き、通訳のDJと3人で焼き肉を食べる。
そこでPurdie氏はおもむろにCDをテーブルに広げた。
のちに師匠に聞いた話だが、以前ツアーに同行した時もそうだったと言う。
こんな偉大なドラマーになってもプロモーションを忘れない。彼を知る人は多いので、どんな時でもビジネスチャンスは広がっているのだ。
少しずつでもちゃんとお金を稼ぐ。そんな彼がチャーミングで仕方がない。
そして彼の荷物を持って駅までお送りし、別れた。
1時間$200のレッスン。
友人に話すとあり得ないほど高いとかボラれたとか言われるが、
僕はそれは関係ないし、充分に価値があったと思っている。
僕は『物の価値はその人の心が決める』と思っている。
例えば、がんばって買った服はずっと大切にする。バーゲンで買った服は大切にしない。もらった服なんて袖も通さない、これと一緒と。
僕自身もレッスンをしているが、よく安くしてとか、最悪タダで教えてと言ってくる人がいるが(苦笑)、いつも思ってしまう。
「何も手に入りませんよ?」と。
事実その通り、10年経った今もPurdie氏のアドバイスは常に覚えているし、あの眼差しもおちゃめさも忘れない。
彼の言葉はこれからもずっと僕に刻まれ続けていくだろう。
□ライター Zin ” Atrevido” Hitoshi
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