ラスト30kmを歩く。
サンティアゴ巡礼に出発してから7日目。
するべきことは歩くこと、そしてスペイン語で会話を交わしながら一日の疲れを取ること。それを繰り返します。
「北の道」はイベリア半島の北部を海を臨みながら歩くルートで、巡礼路の前半はアップダウンが多く、意外に厳しい巡礼路です。
バックパックの中に詰めてきたトレッキング用品とドラムスティックも、グラム単位で荷物を軽くしなければ進んでなど行けなくなって、要らないものを捨てながら歩いています。
そんな荷物の量も不思議と、ある地点で急に落ち着きをみせるもの。多過ぎもせず、少な過ぎもしない量のコツみたいなのを掴んでくるのでしょう。
アルベルゲには寄付BOXが設置されていました。
思考を遮るものがひとつもない場所で削ぎ落とされる一方、アタマの中は語学の事が9割を占めていました。
スペイン語がわからない。
石ころだらけの海岸線を歩くことには、だんだん慣れてきたのに、
コミュニケーションが取れず、たくさんの厳しい指摘の言葉をもらって、自分の存在ごと空気化していく情けなさに心が叫び声をあげます。
「一緒に撮った写真をアップしないで」と言われ存在が無かったことになっていくww
リアルです。
足手まといは捨てながらじゃないと歩けないんだ。バックパックの荷物と同じで・・・。
ダサい、恥ずかしい、「大きな町から、国際線に乗ろう。」
日が落ちると、北スペインの夜は急激に冷え込みます。
にこにこした宿のスタッフさんが声をかけてくれます。
「〆∵B£a⌘th♨︎……」
4ユーロ宿のシャワーは運悪く、水しか出ません。
つめたいでええええええええす!!ってなり、
言葉を探します。超恥ずかしい。なんて言えばいいんだろう。
1日の終わりの夕食の席で
例えばここで歩き続けて体力つけるよりも、明日からでも違う場所に行って、語学を勉強して帰る時間だってあるんですよ。
続けることが、他にある可能性の想像を、潰していることもある。
今じゃなくてもいいんです、いつかまた続きに来てもいいんだし。(日本語)
この、ごく単純に核心をついた言葉に、はっとさせられました。
一度やると決めて挑んだからには、倒れるまでそこにかじり付くものだと思っていたから。
巡礼路に来て、途中で違うところに行きたくなったとします。
それはリセットすることが無い証だそうです。
旅の先輩がその言葉を突いたと同時に、私たちのチームは解散して、おのおのが違う場所に飛行機で向かうことを決めました。
『旅の先輩が撮影したカミーノの写真を見たこと』『音楽家なら日本にいちゃだめだって言葉に突き動かされたこと』。
私はあなたの世界を追いかけて、ここまできました。一応。
「次の町から、国際線に乗ろう。」
ネットカフェで手配したチケットを手に、ひとりでサンタンデール空港へ向かいます。
「Aeropuerto de Santander」と言う言葉をメモ帳に書き付け、それを見せながら。
スペイン語がわからない。
それでも、わたしは、わかりたかった。
のだろうか?
相手になにを伝えたい?
サンタンデールは鮮やかな色がとてもキレイな高級避暑地です。
空港方面のバスが来るまで海岸で腹ごしらえをし、市街地を見て回っていると、1人の巡礼者に話しかけられました。
「どこへいくの?」
「それは良いね! ブエン・カミーノ!(良い巡礼を!)」
この道を行く人々の間での合言葉もラスト。緊張の糸がほどけ、ころがるようにバスに乗ります。
バスを降りる場所が近づくと、周りのお客さんたちが「アンタ、ここだよ?ココで降りるんだよ!」と教えてくれました。
運転手さんが、良い旅を!と、ガッチリと握手をして、手を振っています。
格安航空会社「ライアンエアー」を使って、スタンステッド空港を目指します。北スペインからロンドンまで、海を越えても1800円くらいで行ける、ちょっと恐ろしい航空券。
行き先をイギリスにした理由は、スペイン語での毎晩の会話に参加できなかった事に戸惑い過ぎたからでした。
英語 ナラ スコシ ワカル カモ シレナイ
イギリスに行って、最初はホームステイ付きの語学学校に入るのがいいかな、と考えました。
安い語学学校がたくさんありバックパッカーの途中で英語を勉強しに立ち寄る人も多いと聞いたからです。
帰る頃には英会話しているような自分の姿を思い浮かべると「それはいいなぁ♪」と浮き足立ちました。
そうと決まったら、今すぐヤラネバ!ナラナイ!!
パスポートチェックは、顔写真と顔をほぼ見合わせてないような感じ。
飛行機までは、自力で歩きます。
チケットを確認して座るべき席を探していると、「Anywhere!」と声をかけられました。
え?
ってなりました。
どうやら自由席なようです。
周りを見渡すと、シートベルトをする様子もありません。新聞は読みっぱなし、食べ物は散らかしっぱなしのゴミ箱状態。何もかも初めて体験するカルチャーショックです。
恐るべし、バス感覚!
そして入国審査では、もちろん「流暢な英語で説明すること」など出来ませんでした。
ロンドンの入国審査は、ものすごーーーく厳しくて、入国理由や日程表など英語での説明が必要なことがある。
語学のできなさが、追い討ちをかける。
「さて、これは困った事になった。地図も無いし。」
空港のベンチでスペイン産のピーナッツをかじりながら、考え込みます。
向こう一週間予約していた宿が、手違い(主に語学の出来なさ)により宿泊不可能状態になっています。
このまま明るくなるまで空港に泊まる?ホラ、今8月だし!、、、
よくわからないまま、よくわからない事を考えて、どれくらい居たでしょうか。
「頼みの綱だ!!」
ロンドン在住の、日本人同級生に急遽事の顛末をメッセージし、ものすごく困ってる旨を伝えました。それはもう全身全霊込めて。英語 ナラ スコシ ワカル カモ シレナイは、空港内で撃沈。
スペインで抱えたコミュニケーションへのコンプレックスが大きすぎて、ちょっとのアクシデントでもナーバスになってしまっていたのです。
(あぁ、情けないままスペインを飛び出し、ここでも早速情けない。)
心優しい同級生ちゃんを捕まえ、待ち合わせをする事に決まりました。
「ただ、かなり治安の悪い町なので、駅の改札で待ち合わせね。着いたら一人では絶対に外に出ないで!」
インフォメーション係の愛想の良く無いお姉さんに行き方を書きつけてもらい、列車に乗り込みます。
「本当に会えるのだろうか?」
0:15。ヴィクトリア線の終点のブリクストン駅に到着。
ドキドキドキドキ。
駅の改札に、同級生ちゃんとそのパートナーが居ます!うそっ!
抱き合って、喜んでしまいました。
その夜はそのまま、彼女が5人でシェアをするフラットにお邪魔する事になりました。
住人の殆どがアーティストで、楽器やキャンバスに埋もれて空きソファーがあり、そこに寝袋を敷きます。
このとき、同級生ちゃんの口から悪戯っぽく聞いた言葉は、優しさに溢れていました。
「お礼に、何か演奏してよ。日本でまだ演奏聴いた事無いよね」
つまり音楽を演奏して良い許可。
いいんですか?いきますよ?
そこにあった太鼓を借りて演奏させてもらうと、ルームメイトがそれに合わせて、ちいさな民族楽器を持って叩き出しました。キッチンの扉をパタパタして、鍋の蓋をガチャガチャして、飲みかけのコップも立派な楽器に変身です。
真似をした人が、床を鳴らす。別の楽器を出してきて叩く!吹く!
オーブンレンジの鳴る音で終了!!・・・真夜中のご挨拶セッション。みんなで顔を見合わせて、笑い合います。
あ、心からありがとうだ。楽しかった だ。感謝の気持ちを伝え尽くしたい!
私は自分が「相手になにを伝えたいか」について何の考えも持っていなかったことに気づき、愕然としました。それと共に、なぜ自分がスペインでぼっちになったのか、やっと分かりました。
巡礼路を必死に歩いてきたはずの「頑張ってる感じの自分」は、ハタから見て全然「面白そう」じゃなかったのでしょう。
「あなたは、ここで何をやりたいの?」という、
中心になるはずの核の部分に、実はなんにも、”自分軸”が無かったんだから。
スペイン語がわからない。
そこで、わたしは、世界を閉じたんだ。
声をかけてくれた街の人や、バスの運転手さんに、なにか伝えたかった?
「うちのソファーでよければ、居てくれていいんだよ。この通り5人暮らしでキタナイところだけどね。ねぇどうする?」
同級生ちゃんに訊かれ、
断る理由など、ありませんでした。
その代わりに出来そうなことを、わたしは必死に探していました。
□ ライター 前田紗希
国立音大⇨世界一周⇨NY
『studio iota label』旅×音楽の8事業の社長・編集長
音楽療法/写真/SEOライター/カフェ
【studio iota label】
【LoFi Hiphop BGM】流れるイオタ『黄昏を駆け抜ける』 (Official Album Video) – Driving through the twilight
日本のレコード会社 studio iota LLC.では音源の企画制作・流通販売、WEBコンテンツの発信、企業のWebライティング、動画BGM製作、アーティストやお店などの写真撮影、作曲・編曲事業、レコーディング・ミックス事業などを行っています。
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