旅の先輩の背中を追いかけて、超弩級パニック障害をトレーニングで乗り越えスペイン横断に飛び込んだのに、スペイン語の会話が重要になってくる旅に馴染めずアウトサイダー。

でも英語ができるイケてる自分を夢見て、バックパックを背負ったままロンドン留学に臨んだ。なのに手違いで宿ごと取り下げに

留学を断念し、ロンドンで演奏しながら居候で宿を得ることに。

旅に出る理由なんて「燃料」だからなんでもいい。

つまずきまくり女子の、初の海外生活。


 

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動機なんて車の燃料と同じよ。

「旅の先輩の、近くにいきたい」

それが、大学終了と同時に飛行機に乗れなくなった私がスペイン横断に出た理由だった。

当時の私は、突如現れた4ヶ国語喋れる「旅の先輩」に相当熱を上げていた。

 

「音楽家なら日本にだけ居てはダメですよ。今度スペインを横断してそのまま暮らそうと考えているんだ。一緒に来ますか?

今となっては、ふんわり優しいけど、どこか掴みどころがない……本当は一番ズルい男だったろうと思ったりする部分もある。
これって嫌じゃないけど……え、どういうつもりなんだろう?

けれども当時は私にとって国内で演奏場所は無く、さらに飛行機に乗れなかったために、海外に出ることができないもどかしさに耐えられなかった。

 

行きたい。行きたくて行きたくて悔しくて雪の日も休まずトレーニング。約4年半のブランク期間に、もういい加減ウンザリしていた。「このまま孤独に大人になっていいの?」と気持ちが焦る。

当たり前だ。3歳のころから、「音楽を演奏しながら冒険する人」になるのが私の夢だったのだ。それが叶うんだったら他に何にも要らないと思って生きてきた。でも、今の自分のざまはどうだ。

 

「そんな日々に、海外に移ることで終止符を打つ!」

 

・・・行きます!!!

 

甘い言葉ひとつ呟いてくれたわけじゃないのに。

 

「英語を勉強して帰る自分」の想像図は、楽器屋街の圧倒的パワーの波によって、敢えなく押し流された。

数日前にロンドンにやってきた。

初めて目にする、ダブルデッカーバス。赤の電話ボックス、ピカデリーサーカスそして語学学校が沢山あるオックスフォード・ストリート 。
想像していた
曇り空ではなく、ピーカンな青空だ。

晴れが続いてるとは言え、「1日で一年分の気候が体験できる」と呼ばれるロンドン。夕立ちも珍しくないし肌寒い。


この日は水曜日。
現地ですでに6年暮らしているという、頼もしい日本人のシンガーの女の子と会う約束をしていた。

老舗ジャズクラブ「ロニー・スコッツ」で、毎週水曜日にフリーセッションがあるので一緒に演奏に出掛けようと声をかけてくれたのだ。

 

そうと決まればモスクワで盗られたドラムの演奏道具を買いに行かなくてはならない。ロンドンで唯一の楽器屋街、デンマーク・ストリートへと狙いを定め、向かった。
ほんの100mほどの通りにいくつかの楽器屋が並んでいる。夕方5時には全部閉まってしまうシロモノだ。

ドラムスティックはレジの後ろの棚にこじんまりと潜んでいた。

(見せて下さい、ってなんて言うんだっけ?)
「Would you show it?」 アレアレ、とにかく指差しとけ!

店「もちろん、okだよ」
つ、通じたー!

VIC FIRTHのSTEVE JORDANのスティックを一組購入。
ちなみに、お値段は日本とほぼ(と言うか全く)一緒!

店「袋は要る?」
「Yes, please.」

買えた買えた!
「英語の中で暮らす」って感覚は、ちょっとのことでも嬉しい。

 

英語?何それ、おいしいの?スペイン語よりも読めそうだし、語学学校に留学して、そんでまぁ話せる自分になったらいいよな。みたいな、そんなどっちつかずの気持ちで旅していたら、そりゃあやっていけるわけないよなぁ。

楽器に触れることを通して、成し遂げられた私はラッキーだ。

 

シンガーをしている彼女と一緒に向かう先の「ロニー・スコッツ」は、世界の大物たちが出演してきた有名なジャズクラブ。週末のロニー・スコッツに予約無しで来ても、テーブルを見つけることは不可能に近いと言われる。

フリーセッションは毎週その二階で行われていて、何時に始まるかが分からない。
たまに出演を終えた大物アーティストが混ざって神業が展開されるそうだ。

入場料は一人5ポンド(600円)。ミュージシャンである事を証明できればそれも無料になる。

二階へ上がると既に演奏は始まっており、席は満席だった。
正統派で且つファニーにNica’s Dreamが演奏されている。

レ、レベル高い!!冷や汗が出た。
老舗だけあってか、観光客の一見さんが混ざれる雰囲気じゃない。
酔っぱらっている人もいるので、かなり盛り上がっている。

私達はちょこんと座り、喜びを隠せずに参加できる曲を待ちながらたっぷりと24時過ぎまで楽しんだ。

その夜は限られたパートしか募集していないようで、「演奏できるんじゃないか?」という我らの淡い野望はアッサリと打ち砕かれたのだが。

「バスは24時間営業なんだよ!」と、まだ余裕顔を作る面々。なんて素晴らしいのだ。

 

何事も経験がすべて、なんて。意地を張らない姿も有れる方がずっと格好いい、なんて。

 

アフリカ系・カリブ系の住民が多いブリクストン。一歩路地に入れば、大きな音でレゲエ音楽が掛かっていたりと、ロンドンではないような光景が広がっている。

ブリクストン滞在中にイギリス暴動が起こり、お店が燃やされたり略奪されたり、ガソリンスタンドに石が投げられたりしていたが、そんな中でFacebookなどで呼びかけ「今サウンドシステム持ってる奴みんな来い」的なゲリラパーティーが行われた。

商店街の中にセットを組んで、バンドが演奏をする。

人は、踊ったり、ピザを食べたり、座ってビールを飲んだり、まるで自由だ。こじんまりした宇宙の中で、まるで小さなフェスのようだった。

その時のエネルギーは、本当に凄いと感じた。

 

サンドイッチを持って公園を散歩していると、隣の人が話しかけてくる事も、珍しくない。

「どうしてここに来たの?」「どれくらい滞在しているの?」
英語の教科書みたいな会話を投げかけ合う。

「いつから英語に慣れたの?」と質問すると「今だって全然聞き取れないよー?何ヶ月かすると突然聴こえてくるってよく言うけど、全然だめだった!」と、笑いながら教えてくれた。

 

私は思った。

カタコト英語って、理解してもらえないときがあまり無い。だから英会話を使うそれが、最初は楽しくて仕方が無かった。

けれどそれは、”必要最低限”しかしゃべっていないから。

相手の事を解れない事の方が、100倍くらいあった。それで一気に怖くなってしまった。

自分はいつもいつも、良くも悪くも相手の出方を待ちすぎているところがある。

意見をしっかり考えて、伝えなければならない。

目を見て、伝えなきゃ。

その先にやっと、自分で築き上げる世界や、本当の仲間があるのだろう。

 

駆け出す準備は愛の中で。


隣の部屋から、フラットメイトの女の子が会話する声が聴こえてくる。中庭に行くと、「今年 初めて朝顔が咲いたよ!」と、外壁を指して見せてくれた。

きょうは楽器屋街「デンマーク・ストリート」で、ロンドン2度目のライブ演奏の日だった。

バックパックに荷物を詰めて、元々はスペイン巡礼路を横断する用途だったトレッキングシューズに履き替える。「(その靴は)とてもドラムには向かない」。

たった2時間飛行機に乗ってきただけで環境ってガラッと変わったんだと、しみじみ思う。


後でライブ見に行くからね!頑張って」と、フラットメイトがきちんと愛してくれる。
とても嬉しい。

この旅で出会った「彼女」は、いつも親切だ。語学が出来ない私が家の中で会話に漏れない様に、起きる時間や帰る時間を見計らって気を回してくれていたのを知っている。

毎日アノネ アノネと話す傍らで、温かいお茶をいれてくれた。

力を添えてくれた場所は、本当に心強かった。

 

本番の前はいつも逃げ出したくなる・・・はずだった。時折ズキリと痛む癒えない生傷。

国内でどんなにフィジカルトレーニングしたところで、1曲目を演奏し始めると、途端に息が上手くできなくなって非常に苦しい。あぁ練習では大丈夫なのに、楽しみだったのに、おかしいなぁ。。。

プライベートでもルームシェア相手と同居を解消したばかり。手の内全部明かし合ったことを手土産に攫われる虚しさよ。心の底から大切で愛していると思っていた人を2人同時に失ってしまう悲しさよ。多分これは、この世界最大のやり切れなさのひとつだ。

家のドアが閉まる音は私を奈落の底に落とすには十分で、空っぽになった楽器部屋に座り込む。
もう人生で何度もだ。(ひどい)

その時に決めたのだ。決して負けたりしない生き方をすると。

そんな日常抱えるような荷物を、感じているヒマは無い。

 

出発する頃に雨が降ってきた。「しまった!」と思ったが、シャワー状の霧みたいな雨だからこちらの人はあまりカサをささないのだそうだ。

さて、ヨーロッパのアンダーグラウンド・ライブをとにかく初めて体験したのだけれど、見る側も演る側も、飲み代以外の「チャージ料」が掛からないのであった。

ロニー・スコッツでも感じたが、ある意味とても気軽にライブを見れる文化が根付いているんだな、と少し羨ましく思う。

お金ではないぶん、演奏が面白ければどんどん人が集まるし、面白くなけれな容赦なく背中を向けられてしまう。ダイレクトな反応が返ってくる、それは最高にスリリングだ!!

その日のライブ演奏は、最後にアンコールまでもらえ、大変楽しかった。

「今日のライブ会場はロンドンの中で一番幸せな場所だったに違いないよ。」そう話しながら、パブで簡単に乾杯をした。

 

いつかまたどこかで会って、きっと音楽をするんだろうね。

不思議なほどそう思えたから、今日もアンダーグラウンドの入り口でお別れをする。

そこには、強い気持ちが生まれてきていた。

たくさんの勇気をもらえたので、下を向いてはいられないから。日本でまた勉強し直さなくちゃ。

動機なんて車の燃料と同じ。大事なのはどこに行くかだろう。

 

「ほら電車来ちゃうよ、行って!!」

その一言で弾かれた様に駆け出した。

私は地下鉄の改札を一気にくぐったところで振り返って

「本当にありがとう!またね!!」

と手を振った。

 

さまざまな国で演奏するのは、ずっと小さい頃から決めていた夢でした。

出足はズイブン遅くなちゃったけれど、本当に本当に小さな一歩。

その事を思うとき、きっとこの場所の色や、ここの人達のくれた寛大なあったかさを原点に思い出すんだと思う。そうでありたい。

私は今日も音楽をするために街に出る。

 

編集後記

その後、定期的に旅立ち四〇ヶ国を巡る。2015年秋から独立。
『スタジオイオタ』という会社のネーミングは、このときのフラットメイトの”同級生ちゃん”が、「今度オーロラを見に、アルタに行くんだ。スタジオアルタのアルタだよ。」と言っていた日に設立したからだ。
運命じゃないか。

 

 ライター 前田紗希
作曲家、ドラマー、RECエンジニア
国立音大⇨世界一周⇨NY
『studio iota label』旅×音楽の8事業の社長・編集長
音楽療法/写真/SEOライター/カフェ

 

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【studio iota label】

【LoFi Hiphop BGM】流れるイオタ『黄昏を駆け抜ける』 (Official Album Video) – Driving through the twilight

 

日本のレコード会社 studio iota LLC.では音源の企画制作・流通販売、WEBコンテンツの発信、企業のWebライティング、動画BGM製作、アーティストやお店などの写真撮影、作曲・編曲事業、レコーディング・ミックス事業などを行っています。

【ウェブサイト】http://www.studio-iota.com/
【X(Twitter)】https://twitter.com/nagareruiota
【note】https://note.mu/nagareruiota

>「心から出て心に還る音楽を」をモットーに、粋な義理人情を大事にし、 旅に似合う音楽を提供し続けていきます。

「心から出て心に還る音楽を」をモットーに、粋な義理人情を大事にし、 旅に似合う音楽を提供し続けていきます。

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